平成の原野商法

不動産の有効活用や所有に興味ある皆さんに、少し変わった不動産取引の話をします。不動産取引にも、いろいろなことがあると、思っていただければ幸いです。

1. 昭和の原野商法

日本列島改造ブームのころから昭和の終わりころまで、北海道や那須などの原野を高く売りつけるという原野商法が流行りました。素人さんに、ほとんど値段のつかない、普通には売れることがほぼない無価値な原野(土地)を、高い値段に売りつけるという、単純なものです。原野を買わされた素人さんは、そのまま、原野を持っておくより他は、ありませんでした。

昭和の原野商法で買わされた土地(原野)は、全く無価値で費用がかからない原野もありますが、多くの場合、毎年の固定資産税や半年に一度程度の草刈り費用数万円がかかるにもかかわらず、収益を産まない「負動産」です。

素人さんが、何十年も「負動産」を持たされることは、大変な苦痛です。

なお、自分一人で、無価値な原野をなかったことにする、つまり「放棄する」方法は、現行法にはありません。無価値な原野を放棄するには、相続や、会社を潰す際に、小賢しい方法をとる他ありません。

2. ​平成の原野商法

ところが、ここ数年、昭和に原野を買わされた素人さんに、詐欺の二次被害が出ています。手口は次のようなものです。

詐欺会社Xは、昭和の原野商法で原野甲を買わされた素人さんAに、その原野甲を高く買ってあげる、という連絡をします。

昭和の原野商法の被害者である素人さんAは、多くは高齢者で、原野甲の維持費に悩んでいますので、その話に飛びつきます。

しかし、価値のない原野甲を高く買うという話には、別の話がついています。つまり、詐欺会社Xは、Aさんから原野甲を買うのと不可分で、Aさんに、原野甲よりも数百万円から数千万円高い価格で、原野乙を売りつけます。結局、Aさんは、原野甲と原野乙の差額数百万円から数千万円を支払わされることになります。

この際、詐欺会社Xは、「税金がかからないようにします。」とか、「原野乙は、値上がりします。」等といい加減な詐欺文句を述べます。
まとめると、Aさんは、前から持っていた原野甲が原野乙に代わり、差額数百万円から数千万円を、詐欺被害として失います。つまり、Aさんは、「負動産」をだしに使った詐欺にあうのです。

[例]
原野甲Aさんから詐欺会社Xに2,000万円で不可分で売る。
原野乙X詐欺会社からAさんに3,000万円で不可分で売る。
Aさんには、代金差額1,000万円の詐欺被害が残る。

3. 平成の原野商法での税負担

平成の原野商法の被害者Aさんは、現金の詐欺被害だけでなく税金でも悩みが生じます。2に書いたAさん、昭和に原野甲を1,000万円で買っていたとします。

すると原則として、

2,000万円−1,000万円=1,000万円

の長期不動産譲渡所得が発生します。なお、譲渡所得は不動産毎に考えるので、原野乙の購入費用は、原野甲の譲渡所得計算の際には考慮の対象外です。
この場合、所得税住民税合わせて2,031,500円の税額になります(仲介手数料、不動産取得税等はないものとして計算しています)。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm

詐欺被害者からさらに税金を取るとはひどい話だと思いますが、税法の原理からすると、如何ともし難いようです。

4. 救済

A. 現金被害

詐欺会社Xが宅地建物取引業者の場合、宅建業者は原則として1,000万円の営業保証金があるので(宅地建物取引業法25条1項、同施行令2条の4)、その1,000万円の保証金から回収を図ることが考えられます。ただし、宅地建物の取引についての営業保証なので、宅地とはいえない「原野」の取引は、救済の対象外です。
http://www.hosyo.or.jp/
http://www.fudousanhosho.or.jp/

Aさんは、民事訴訟で、詐欺会社X、同社の代表取締役、取締役、担当者個人、関与した宅地建物取引士、司法書士等を訴えて、被害回復を図ることは考えられます。
しかしながら、詐欺会社ですので、逃げていることが多く、現実に現金を回収できるとは限りません。

B. 税金の回避策

譲渡所得税・住民税を回避するには、原則として、不動産の登記を戻すことが必要です。つまり、原則として、原野甲の所有権登記を、被害者Aさんに、民事訴訟手続き等を用いて戻すことが必要です。

ところが、多くの場合、詐欺会社Xは、さらに別の被害者Bに、原野甲を売りつけています。そして、さらに原野甲は、別の詐欺会社Yが購入し、詐欺会社Yは別の被害者Cに売りつけ…. となっていることがよくあります。

原野甲:被害者A→詐欺会社X→被害者B→詐欺会社Y→被害者C→…..
原野乙:詐欺会社X→被害者A→詐欺会社Y→被害者D→….

このように、原野甲の所有権登記が被害者Cになっている場合、Aさんは、原野甲の所有権登記を戻してもらうには、詐欺会社X、被害者B、詐欺会社Y、被害者Cの全員から、所有権登記を戻すことの同意又は、所有権登記を戻せという判決を得ることが必要です。

そして、Aさんが、詐欺会社X、被害者B、詐欺会社Y、被害者Cを相手に所有権登記を戻せという民事訴訟を行った場合、被害者B、詐欺会社Y及び被害者Cは、Aさんとは直接の契約はなく、不動産登記に関する理論からは、本来は、請求は容易に認められない、となります。

しかしながら、詐欺会社X、詐欺会社Yは、ほとんどの場合、民事訴訟には出てこないので、欠席での勝訴判決を得ることができます。

なぜなら、詐欺会社の関係者は、民事訴訟に出席して、居所が知られ、さらに民事、刑事の手続きを取られることを恐れるからです。

また、被害者B及び被害者Cは、自ら登記の無効を認めることが合理的です。なぜなら、原野甲についての登記が有効、つまり原野甲についての売買契約が有効だと主張するということは、原野甲の売買契約と一体となっている他の譲渡所得が発生する原野についての売買契約も有効であると主張することになる、すなわち、譲渡所得の発生を自認することになるからです。

被害者B及び被害者Cが、原野甲についての売買だけをつまんで有効である、他の原野の売買は無効であると主張することには、一貫性がなく、課税のリスクが高くなります。

言葉を代えると、Aさんの代理人が、被害者B及び被害者Cに対し、税金がかかる(譲渡所得課税がある)ぞ、と警告すると、被害者B及び被害者Cは、原野甲についての売買契約の無効、登記の抹消を認めるしかなくなるのです。

ということで、譲渡所得については、民事訴訟を行うことで、回避できる可能性があります。

詐欺の時代

詐欺師は、大きなお金が動く不動産取引を狙っています。

振り込め詐欺等の特殊詐欺の花が咲きほこる今、原野商法も盛んですので、皆様お気をつけください。

うまい話には裏があります。金を払う場合は、その理由を十分考えるようにしてください。

6. 原野商法を行った会社

次の各会社は、有名な原野商法の会社です。

◇中央区日本橋本町所在 東京土地建物株式会社 代表取締役 河本陽介
◇新宿区西新宿所在 株式会社大正不動産 代表取締役 鈴木茂雄
◇豊島区東池袋所在 株式会社Nextstage 代表取締役 小松健
◇中央区銀座所在 株式会社さくら住宅販売 代表取締役 中森一

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