借地非訟事件(譲渡許可)の進行と明渡訴訟

1. 借地非訟事件(譲渡許可)の進行

借地非訟事件(譲渡許可)は、だいたい次のように進行します。
1 申立
2 形式的事項(借地範囲、地代、契約期間)の見解に相違がないことの確認
3 鑑定委員会による鑑定
4 決定

2. 借地の形式的事項の調査、文書化

1 借地範囲
借地非訟の申立は、借地範囲が一筆の土地全部の場合、裁判所は、現況測量図面なしでも、受けつけてくれます。

ところが、借地範囲が、一筆の土地の一部の場合、現況測量図で、借地範囲の主張を明確にする必要があります。現況測量図では、現地にある境界石、境界鋲、境界杭、塀の角の部分、建物の角の部分等を複数記載して、必要に応じて座標も記載して、現地において、どの部分が借地範囲であるかを文書化します。

この際、建物の敷地として使用している部分以外に、道路や通路として通行が認められている範囲や、建物が地主の土地以外に出っ張っている範囲がある場合、それらの範囲も明瞭になるように、図面に書き込んでおくことも必要です。

なお、借地範囲が一筆全部の場合でも、境界位置が不明確な場合、現況測量図が必要になります。
現況測量図の作成は、測量士に依頼するべきでしょう。

申立人としての借地範囲の主張が明確であることが必要なだけですので、現況測量の際に、地主、隣地所有者や隣地借地人の立会は、必要ありません。これらの方の同意をとっておけば借地非訟は円滑に進みますが、借地非訟になるような案件では、借地範囲の同意図面は、容易に得られない場合が多いと思います。

2 地代
地代の金額(月額または年額いくら)、支払い方法(当月分前月25日払い、振込送金等)を明確にする必要があります。

なお、以前は数カ月分をまとめて振り込んでいたが地主からの苦情はなかったような場合でも、地主から争う余地を減らすため、借地非訟事件を考慮した段階では、約定どおりの支払うべきです。

3 契約期間
当初の借地契約書、更新借地の契約書がすべて揃っていることが理想で、その場合は、契約期間が後何年残っているのかは、明瞭です。

当初の契約書がない場合、原則として、最後の更新契約から、借地借家法または旧借地法による契約期間の規定の規定による法定更新だったと仮定して、何年の契約期間が残っているのかを推定計算します。

当初契約書も更新契約書も全くない場合は、土地建物の登記簿謄本、建物台帳等から、建物の建築時期を推定して、そこからの借地借家法または旧借地法による契約期間の規定から、何年の契約期間が残っているのかを推定します。

3. 地主側での借地非訟争い方法

1 借地範囲
地主側の場合、まず、借地範囲についての主張が明確でない場合、借地範囲を明確にするように求めることになります。

図面がない場合、図面が添付されていても、現地境界石等の記載がない場合、現地における主張範囲を明確にしろ、と主張として、借地人に必要な現地測量をさせて、1〜2回の期日を争うことができます。ただし、地主は、現況測量図に対し、具体的にどこが借地人と地主で認識が異なっているのか、図面等で明確に主張する必要があり、漠然と借地範囲が異なっている、という主張だけでは、裁判所は、相手にしません。

借地範囲に関する借地人側の主張と地主側の主張が合致しない場合、借地人は、借地範囲は借地非訟とは別の訴訟手続きで争う他、ありません。このため、借地人は、地主側の主張に一応の根拠があり、争いのある土地の範囲が狭い場合は、地主の主張を認めることが一般的です。

2 地代等
地主が、地代を値上したが、昔の地代しか払ってこないので、借地人は債務不履行である、という主張は考えられますが、避けるべきです。地代値上げは、借地借家法11条に手続きが定められていますので、その手続を実施しないで地代値上げを主張しても、効力がないので、債務不履行を主張しても意味がないからです。

更新料の未払も、明確な金額の約定がない場合、例えば「新地代1年分を支払う」という約定のような場合は、主張しても意味がありません。

また、地代が安価だから譲渡許可決定するな、も、借地非訟(譲渡)の手続き内で地代の値上げが予定されている(借地借家法19条1項)ので、基本的には、言ってみるだけ、といえます。

ただし、地代が固定資産税都市計画税の合計額を下回るような場合、赤字になっているので、「地代を払っている。」と評価して良いのか、私としては、疑問が残ります。

3 契約消滅に関する主張
地主が自己使用を理由に法定更新を争う、朽廃による借地契約の終了を主張するのであれば、地主から別に、建物収去土地明渡訴訟を提起する必要があります。

法定更新から遅滞なく訴訟を提起する場合、地主の形式的な自己使用と、借地人に借地使用の必要がないこと(譲渡許可を求めているのですから、借地人に借地保有の必要性がないことは明らかと言えます。)を主張し、認められると、借地権価格の数分の一の支払いで、明渡しになります(旧借地法4条1項但書)。

原則として、建物収去土地明渡訴訟係属中、借地非訟事件(譲渡許可)は、中止されます(借地借家法48条)。

4 介入権行使
地主自身が借地権及び借地上の建物を買い受けるという主張をすることができます(借地借家法19条3項)。

鑑定により健全な借地権の存在を前提とする高い価格が算出されるため、実際に地主が介入権行使価格で借地権及び建物を買い取ることは稀です。

しかし、事案によっては、買受予定者に買受できないかもしれない、と思わせて、心理的圧力をかけることはできます。

なお、介入権行使は、裁判所の鑑定委員会による鑑定結果が出た段階で、取り下げることができるので、介入権を行使したからと言って、地主が高価な鑑定価格での借地権買い取りを強制されるものではありません。

5 地主が固執すべきではない主張
借地権者と譲受け候補者間の売買契約書の証拠提出、特に売買金額の開示を求めることは、裁判所から積極的に開示しろとの指示が出ることはないので、程々にしたほうが良いでしょう。

6 まとめ
以上をまとめると、地主には、借地範囲の特定が不十分、最近法定更新したという借地人の主張に対して遅滞なく地主の自己使用のために借地契約更新拒絶するので借地権は消滅した、介入権行使する、等有力な手段はありますが、借地人がきちんと手続きをとっていると、借地非訟事件(譲渡許可)は、認容される可能性が高い、と言えます。

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