借地借家法における立ち退きの正当事由とは?事例もわかりやすく解説

借地借家法における立ち退きの正当事由は、貸主が借主に立ち退きを求める際に法的に認められる理由のことです。これには、建物の老朽化や貸主自身の利用、再開発などの必要性が含まれます。

この記事では、立ち退きの正当事由が認められる具体的なケースや交渉のポイント、正当事由が認められなかった事例についてもわかりやすく解説します。立ち退きに関する知識を深め、円滑な対応の参考にしてください。

【この記事のまとめ】

  • 借地借家法では貸主の「正当事由」が必須です。
    借地借家法は賃借人の権利が強く保護されています。双方の事情や契約経緯、利用状況、立ち退き料などを総合的に判断されます。
  • 交渉期間や立ち退き料相場に留意が必要です。
    交渉は期間満了の1年前から6ヶ月前までに開始し、居住用と事業用で異なる立ち退き料の相場も考慮すべきです。
  • 借主に過失があれば立ち退き要求が認められやすいです。
    借主に家賃滞納や契約違反など過失がある場合は、貸主の立ち退き要求が認められやすくなります。

監修
宅地建物取引士 坂東裕

2013年より不動産業に従事。
2015年に宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーを取得。

地主交渉のスペシャリスト。借地権にとどまらず、事故物件、収益ビル、倉庫、アパート等、各種不動産売買に精通している。
累積取引数は300件を超える。

趣味は不動産と料理。得意料理はイタリアン。

監修
宅地建物取引士 坂東裕

2013年より不動産業に従事。
2015年に宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーを取得。

地主交渉のスペシャリスト。借地権にとどまらず、事故物件、収益ビル、倉庫、アパート等、各種不動産売買に精通している。
累積取引数は300件を超える。

趣味は不動産と料理。得意料理はイタリアン。

借地借家法とは

土地や建物の賃貸借に関する賃借人の権利を保護する目的で制定された法律が「借地借家法」です。この法律は、土地を借りて建物を建てる場合(借地権)と、建物を借りて使用する場合(借家権)の双方に適用されます。

借地借家法の大きな特徴は、賃借人の権利を手厚く保護している点にあります。不動産の貸主が一方的な都合で契約を解除したり、立ち退きを求めたりすることは原則として認められていません。

特に立ち退きに関しては、貸主側に「正当事由」がなければ要求できないとされています。この規定により、賃借人は安定して土地や建物を利用することが可能となっています。

なお、法律の適用範囲は建物の所有を目的とした土地の賃貸借や、建物の賃貸借に限定されます。例えば、資材置き場として土地を借りる場合や、月極駐車場の賃貸借には適用されません。

借地借家法における立ち退きの正当事由とは

借地借家法では、貸主が賃借人に立ち退きを求める際には「正当事由」が必要です。この正当事由は、単に貸主側の都合だけでは認められず、様々な要素を総合的に考慮して判断されます。

立ち退きの正当事由を判断する際の主な要素として、まず貸主と借主双方の土地・建物の使用を必要とする事情が挙げられます。例えば、貸主側が自身や家族の居住のために物件を必要としている場合や、借主側が生活や事業を営むうえでその物件が不可欠である場合などが考慮されます。

次に、賃貸借契約の従前の経緯も重要な判断材料となります。賃貸借期間の長さ、賃料の支払い状況、契約更新の有無、さらには賃借人による契約違反の有無なども考慮されます。

また、土地や建物の利用状況も正当事由の判断に影響を与えます。老朽化の状態、耐震性の問題、周辺の開発状況なども、立ち退きの正当性を判断する要素です。

さらに、立ち退きの条件として貸主から提示される金銭的補償(立ち退き料)の有無やその金額も、正当事由を補完する重要な要素として考慮されます。立ち退き料は、借主の移転費用や営業損失などを補填する意味合いを持ちます。

以上のような要素を総合的に勘案し、立ち退き要求に正当性があるかどうかが判断されることになります。ただし、正当事由があると認められても、必ずしも立ち退きが実現するとは限らず、借主との話し合いや適切な補償が必要となるケースが一般的です。

貸主の都合で立ち退きを求める場合の交渉期間

貸主の都合で立ち退きを求める場合、借地借家法では明確な交渉期間が定められています。具体的には、賃貸借契約の期間満了日の1年前から6ヶ月前までの間に、借主へ立ち退きの意向を伝え、交渉を開始する必要があります。

この期間設定には、借主に十分な準備期間を確保するという重要な意味があります。転居先の物件を探す時間や、店舗の場合は新たな営業場所の選定、さらには引っ越しの段取りなど、借主側には様々な対応が必要となるためです。

実務上は、より余裕を持って1年以上前から交渉を始めるケースも多く見られます。これは、立ち退き条件について双方が納得のいく合意に達するまでに、相当な時間を要することが多いためです。

仮に貸主が法定期間を過ぎてから立ち退きを申し入れた場合、賃貸借契約は従前と同じ条件で自動的に更新されたとみなされます。その結果、立ち退きを実現するためには、次の契約期間満了時まで待たなければならなくなります。

なお、この交渉期間に関する規定は、立ち退き要求に正当事由があることを前提としています。交渉期間を遵守していても、正当事由が認められなければ立ち退きを実現することは困難です。

借地借家法における立ち退きの正当事由を判断する要素

借地借家法において立ち退きの正当事由は、単一の要素だけでなく、様々な要素を総合的に考慮して判断されます。

立ち退き要求の正当性を判断するためには、貸主と借主双方の事情から、物件の状況、さらには補償の内容まで、幅広い観点からの検討が必要となります。

立ち退き料の相場

借地借家法における立ち退き料の相場は、居住用と事業用で大きく異なります。一般的な賃貸住宅の立ち退き料は40万円~80万円程度で、店舗の場合は業種や規模によってさらに高額になります。

【居住用物件の立ち退き料相場】
・アパート・戸建て:40万円~80万円程度

【事業用物件の立ち退き料相場】
・コンビニ・ドラッグストア:7,000万円~1.5億円
・診療所・歯医者:1億円~2億円
・小規模物販店舗:300万円~600万円
・飲食店(1階):1,000万円~1.5億円
・飲食店(1階以外):500万円~1,000万円
・美容院:400万円~500万円

居住用の立ち退き料は、主に以下の費用を考慮して算出されます。

・引っ越し費用
・新居の仲介手数料
・新居の家賃との差額補填(1~2年分)
・その他の諸経費

一方、事業用の立ち退き料には、上記の費用に加えて営業補償も含まれます。特に飲食店などは、立地が売上に大きく影響するため、高額な立ち退き料が設定される傾向にあります。

なお、個々の事例によって諸条件が異なるため、これらの金額はあくまでも目安となります。実際の立ち退き料は、物件の状況や当事者間の交渉によって決定されます。

借地借家法における正当事由での立ち退きが認められた事例

借地借家法における立ち退きの正当事由が認められるケースには、以下のようなものがあります。

● 建物の老朽化
● 土地の賃貸人の自己使用の必要性
● 再開発などの理由
● 借主の営業目的・自己使用

建物の老朽化

建物の老朽化による立ち退きが認められた事例として、昭和 46年に建築されたアパートの立ち退き事案があります。このケースでは、建物を相続したAさんが入居者Bさんに対して、老朽化による建物の解体を理由として賃貸借契約の解除を申し出ました。

当初、Bさんは立ち退きを拒否しましたが、東京地裁は100万円の立ち退き料の支払いを条件に、Bさんに立ち退きを命じる判決を下しました。裁判所は、Bさんに賃料滞納などの事実はないものの、建物の老朽化という事情と、適切な立ち退き料の支払いにより、正当事由があると判断しました。

土地の賃貸人の自己使用の必要性

学校法人Aが借地人Cに対して土地の明け渡しを求めた事例では、老朽化した大学病院の建て替えという目的が認められ、立ち退きが認められました。

Cは土地上でうどん店を経営しており、立ち退きによって自宅と生計手段の両方を失うという深刻な影響を受けることが認められました。しかし裁判所は、学校法人Aの大学病院建設という公共性の高い使命を重視し、立ち退き料の支払いを条件に正当事由を認めました。

再開発などの理由

築40年を超えるビルの再開発を目的とした立ち退き事例では、A会社が近接する自社ビルとの一体開発のために、賃借人に建物の明け渡しを求めました。

2店舗が立ち退きを拒否したため裁判となりましたが、裁判所は建物の老朽化と周辺の土地の高度利用化が進んでいる状況を考慮し、一定額の立ち退き料の支払いを条件に建物の明け渡しを認めました。

借主の営業目的・自己使用

パチンコ店を20年以上営業していた借地人に対し、貸主が本社社屋建築のための立ち退きを求めた事例では、借地人の営業継続の必要性と貸主の土地利用の必要性を比較検討した結果、8億円という高額の立ち退き料の支払いを条件に、立ち退きが認められました。

また、新聞販売店を営む貸主が従業員宿舎建築のために立ち退きを求めた事例では、6,450万円の立ち退き料支払いを条件に正当事由が認められています。

借地借家法における正当事由での立ち退きが認められなかった事例

立ち退きの正当事由が認められなかった場合でも、全く対応策がないわけではありません。立ち退き料による解決や、底地の売却という選択肢を検討することで、状況を打開できる可能性があります。

以下では、そうした対応策について解説します。

立ち退き料を払う前提であれば正当事由がなくても交渉できる

正当事由がない場合でも、十分な立ち退き料の支払いを条件として立ち退き交渉を進められる可能性があります。立ち退き料には、引っ越し代や新居を借りる際に必要な経費、家賃が上がる場合はその差額分などが含まれます。店舗の場合は、休業中の営業補償も考慮されます。

立ち退き料の金額は法律で定められておらず、地主と借地人の合意によって決まります。そのため、不動産の専門家や弁護士に相談したうえで、借地人との交渉に臨むことが望ましいでしょう。

底地の売却を検討する

正当事由による立ち退きが困難な場合、底地の売却という選択肢も検討に値します。自身で建物を建てるなど底地を利用したい目的があっても、借地人に立ち退きを求める正当事由がない場合は、底地を売却し、その資金で新たな土地を購入する方法があります。

底地の売却方法には、不動産仲介業者に依頼する方法と、専門の買取業者に売却する方法があります。仲介業者経由の売却は、建物を建てるなどの活用ができない底地を購入したい人を見つけるのが困難なため、専門の買取業者への売却を検討するのが現実的です。専門の買取業者は、借地人との交渉ノウハウを持っており、高値での売却が期待できます。

貸主に過失がある場合は立ち退き要求が認められることもある

借主側に家賃滞納や契約違反などの過失がある場合は、貸主都合による立ち退き要求が認められやすくなります。具体的には、以下のような過失が立ち退きの正当事由として認められる可能性があります。

借主が3か月以上にわたって家賃を滞納しているケースでは、貸主と借主の信頼関係が大きく損なわれていると見なされ、賃貸借契約を解除して立ち退きを求めることが可能です。ただし、1~2か月程度の短期的な滞納では、信頼関係が破壊されたとは見なされにくく、立ち退きを要求するのは困難です。

また、借主が深夜の騒音や悪臭の発生など、近隣住民に著しい迷惑をかけている場合も、立ち退きの正当事由として認められることがあります。とりわけ賃貸借契約で迷惑行為に関する禁止事項が定められている場合は、契約解除が認められやすくなります。

さらに、「底地を無断で又貸ししている」「貸主に無断で建物の増改築を行った」などの契約違反行為がある場合は、借地借家法の適用外となり、立ち退き料を支払うことなく立ち退きを要求できます。借主がこれに応じない場合は、遅延損害金などを請求することも可能です。

ただし注意すべき点として、借主の過失による立ち退き要求の場合でも、失業や病気など、社会通念上やむを得ない事情がある場合は、立ち退き要求が認められないケースもあります。

まとめ

借地借家法における立ち退きの問題は、貸主と借主の双方の権利や利益に深く関わる重要な課題です。立ち退きを実現するためには、建物の老朽化や自己使用の必要性など、正当事由の存在が不可欠となります。
また、立ち退き料の提示や適切な交渉期間の設定など、法律に則った適切な手続きを踏むことで、円滑な解決が可能となります。専門家に相談し、正しい知識と手順で対応することで、貸主と借主の双方が納得できる形での立ち退き問題の解決を図ることができます。

借地権無料相談ドットコムでは、借地権に関する相談を無料でお受けしています。借地権の相続、売買、手続き関係など、借地権に関する内容なら幅広く対応しています。さらに、相談から買取までワンストップで可能なため、借地権に関するさまざまな問題はすべて借地権無料相談ドットコムで解決できます。お気軽に、まずはご相談ください。

ピタットハウス秋葉原北店の「借地権無料相談」で借地のお悩み伺います!

どんな些細なことでも、
お気軽にまずはご相談を!

ご相談・お問い合わせはすべて無料です。
「借地権・底地」に関する専門スタッフが対応!
どんな状況の土地にも対応いたします!

※発信者番号通知のみの受付とさせて頂きます。

借地権の買取売却をお考えの借地権者様へ

当社ではどんな状態の借地権の買取も承っております。

地主さんとの交渉の代行から、借地非訟のサポートまで借地権者様を最大限にサポートしつつ、
ピタットハウス秋葉原北店が直接借地権の買取りをいたします。

直接買取りのため、仲介手数料などが発生せず、買い手を見つける業務もないので無駄な費用が無くスピーディーに売買が可能です。

借地権の売却をお考えの借地権者様はぜひとも一度当社にお問い合わせください!